少し前に「老後2,000万円問題」という言葉が大きな話題になりました。
2,000万円という数字そのものがすべての人に必要という意味ではありませんが、今でも老後資金を考えるときの一つの分かりやすい目安として、多くの人の意識に残っていると思います。
そこで、ここでは話を分かりやすくするために、
老後に備えて2,000万円の金融資産を持っている
と仮定してみます。
さらに、この2,000万円を広く分散された株式インデックスなどで長期運用し、
年間の期待リターンを5%
と仮定します。
すると、
2,000万円 × 5% = 100万円
です。
単純計算では、1年間で100万円増えることになります。
資産額は、
2,000万円 → 2,100万円
です。
数字だけを見れば、
「100万円儲かった」
と思いたくなります。
しかし、ここでもう一つ考えなければならない数字があります。
それがインフレです。
仮に今後の物価上昇率を年間3%と考えると、
2,000万円 × 3% = 60万円
となります。
つまり、前年に2,000万円で買えたものと同程度のものを翌年も買おうとすれば、ざっくり2,060万円必要になるということです。
そう考えると、運用で増えた100万円のすべてを「儲け」と考えるのは少し違ってきます。
100万円のうち約60万円は、
インフレによって失われる購買力を補った部分
と見ることができます。
そして残った約40万円が、
実質的に増えたプラスα
です。
かなり乱暴に式にすれば、
株式の期待リターン5% − インフレ3% = 実質約2%
です。
2,000万円なら、
約40万円
です。
もちろん、実際には株式が毎年きれいに5%ずつ上昇するわけではありません。
10%、20%上昇する年もあれば、大きく下落する年もあります。
インフレ率も毎年3%で一定ではありません。
ですから、これは将来の運用成果を予測するための計算ではありません。
あくまで、
「投資で増えた金額のすべてが、自分が豊かになった分ではない」
ということを理解するためのモデルです。
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60万円は「儲け」ではなく、2,000万円を守るためのお金
ここが、この考え方で最も重要なところです。
年間100万円増えたとしても、そのうち60万円程度は、
2,000万円という資産の購買力を維持するために必要だった
と考えます。
つまり、この60万円は使ってしまってよい利益というより、
資産を守るために必要な増加分
です。
そうすると、本当に余裕として増えたのは約40万円ということになります。
もちろん、この40万円も毎年使ってしまう必要はありません。
まだ自分が働いて給与収入を得ている50代、60代であれば、この40万円もそのまま投資に残しておくことができます。
すると、この40万円は翌年からさらに運用されます。
これが複利の元になります。
同時に、翌年株価が下落した場合には、この40万円が損失に耐えるためのクッションにもなります。
長期投資とは「40万円の余裕」を積み上げること
例えば、毎年必ず同じ結果になるという非現実的な前提ですが、考え方を理解するために単純化してみます。
2,000万円を運用して、
株式のリターンが5%。
インフレが3%。
差し引き、おおよそ2%の実質的な余裕が生まれる。
2,000万円に対する2%なら約40万円です。
この40万円を使わずに残していけば、
購買力を維持するために必要な資産
の上に、
実質的な余裕
が少しずつ積み上がっていきます。
私はこれを、
「資産のバッファ」
と考えると分かりやすいと思っています。
しかも、このバッファも投資されたままですから、さらに運用益を生む可能性があります。
長期投資というと、
「複利で資産を大きく増やす」
という説明がよくされます。
しかし50代、60代からの投資なら、
「長い時間を使って、このバッファを少しずつ厚くしていく」
と考えてもよいのではないでしょうか。
現金2,000万円なら、本当に2,000万円を守れているのか
逆に、投資は怖いから2,000万円をすべて現金で持っていたとします。
1年後も通帳には2,000万円あります。
元本割れしていません。
一見すると安全です。
しかし物価が3%上昇していれば、前年に2,000万円で買えたものと同じものを買うためには、約2,060万円必要になっています。
通帳の数字は、
2,000万円 → 2,000万円
で変わっていません。
しかし購買力という意味では、
約60万円分、相対的に弱くなった
と考えることもできます。
これがインフレの怖いところです。
株式投資には値下がりするリスクがあります。
一方で、現金だけを持ち続けることにも、購買力が少しずつ失われるリスクがあります。
だから50代、60代の資産管理では、
「投資は危険だからやらない」
だけではなく、
「老後の2,000万円の価値をどう守るのか」
という視点も必要になってきます。
100万円増えたから100万円使っていい、ではない
この考え方をすると、含み益の見方も変わります。
2,000万円を運用して、今年100万円増えた。
だから、
「100万円儲かったから、100万円使ってもいい」
とはなりません。
もしインフレ率が3%なら、そのうち約60万円は購買力維持のための部分と考えられるからです。
残る約40万円が実質的なプラスαです。
さらに、その40万円も将来の株価下落に備えるバッファになります。
ですから、働いている間なら、
100万円増えたからといって生活水準を100万円分上げるのではなく、そのまま運用に残す。
そうすることで、長い時間をかけてバッファを厚くしていく。
これが50代から定年までの長期投資では、一つの合理的な考え方になると思います。
「5%儲ける」のではなく「3%を守り、2%を積み上げる」
同じ数字でも、考え方を変えると投資の見え方が大きく変わります。
「株式投資で年間5%儲けたい」
と考えると、投資はどうしても利益を追いかけるものになります。
しかし、
5%程度の期待リターンのうち、3%程度はインフレによる購買力低下への備え。
残った2%程度が、将来のために積み上げる安全余裕。
と考える。
すると投資の目的は、
「2,000万円をもっと大きな金額にすること」
ではなく、
「2,000万円で買えるものを、将来もできるだけ維持すること」
へ変わります。
そして、その目的を果たした上で余った部分が、将来の余裕になります。
この発想なら、
「投資は怖いから何もしない」
という極端にも、
「もっと儲けなければ」
と必要以上のリスクを取る極端にも、行きにくくなります。
50代、60代からの投資では、
増やすことより、まず守る。
守れた上で生まれた余裕を、時間をかけて積み上げる。
それくらいの考え方が、ちょうどよいのではないでしょうか。



