リーダーシップの話

あるところで、洪水が起きてさ、川がどんどん溢れてきていて、その川沿いに2つの村Kと村Jがあって、村Kの方がほんのちょっと上流なんだよね。その村はそれぞれ一本の橋で、川の対岸の高台につながっていて、何とか橋を渡れれば、高台に逃げられるって状況。橋は今にも崩れそうで、渡るには勇気がいるし、実際渡れるかどうかもわからないんだけど、村Kの長は、頭が良くて、実行力のある村のリーダー的存在の若者にすべてをゆだねて、とにかく村人を全員対岸に渡すように言って、自分は陰でそれを全面的に支えることにしたんだよね。だって長は村を収める事には長けているけど、こういう状況ではその若者の方が的確な判断を素早く実行できる度胸と実力があると信じていたからね。それも、長が、自分の能力の限界をきちんとわかっていたし、若者を育てようと日ごろから、そういう関係を築いてきたからこそ、信じられたんだけど。実は村KとJ以外にも似た様な状況の村が沢山あって、どの村も、とにかく早く村人を対岸に渡そうとして、行動を開始した。長が指揮を執っている村もあれば、若者が活躍した村もあったな。いずれの村も、村人最優先、なんとかできるだけ多くの村人を渡そうとすることに必死だったということは共通していたんだ。村Kのように素早い行動を起こした村は、怪我人は結構いたけど、なんとかかんとか川を渡り切ったんだ。でもちょっと行動が遅かった村は、橋を渡る前にあふれてきた水で命を落としたり、橋を渡ろうとして命を落としたりする人も多かったんだ。それでも、結局はみんな渡り切ったんだよね。この時は、わずかだけど、洪水が収まる可能性も無いわけではなかったんだ。でも、水が徐々に溢れてきて水没していく地区が増えてきて村人が悲鳴を上げていたからね、洪水が収まるのを待っているなんて余裕はなかったと思うよ。そんな保証もなかったしね。そんななか、唯一村Jだけが、どうも違ったんだよね。村Kよりちょっと下流だったから、最初は被害が少なくてね、村Kが苦労しているのを大変だなぁ、でもうちは下流だから大丈夫じゃない?なんて高みの見物だったんだよね。それに、村Jの長は、自分に能力が無いのを認めたくなかったのかなぁ。それに、普段から村を自分のものだと考えて自分より優れた若者や意見を言う若者が出てくるといじめたりしてね、気が付いたら周りには、自分で考えずに、長のいう通りに動くだけのロボットみたいなのばかりになってしまっていたから、誰に頼むわけにもいかなかったって事情もあったんじゃないかな。できもしないのに、何の行動も起こさずに、変な戦略を練り始めちゃったんだよね。まず、自分と取り巻きは怪我一つなく対岸に渡れること。その次に、自分にとって役立ちそうな人間を渡すこと、あとの村人はそのあとをついてくれば、渡れた者は自分に感謝するだろう? 渡れなかった村人は死んじゃうからそれでいいやって感じ。こういう時に犠牲はつきものだって。村人の中には、このままじゃヤバイ!って勘づく人もいてね、なんとかしてくれって訴えたんだけど、聞く耳もたないの。でも、騒ぎが結構大きくなって、このままじゃまずいなって思ったんだろうね。何とかしなくちゃって。だけどなんとかしなくちゃったって、ろくなアイデアが出てこないし、急ごしらえで作った対策チームも洪水がどう起きるかなんて研究をしている人ばかりで、こういう時にどう行動すべきかってことは全く分かっていないから、まともなアイデアが出てこないの。洪水が起きると水が溢れますよ。水が溢れてきたらおぼれちゃいますよとか、今が正念場だから2週間くらいがんばって泳ぎ続ければ水が引くかもしれませんなんて言っているわけ。他の村から流れてくる水を堰き止めましょうなんてことも言っててね、それで村人も少しおかしくなっちゃって、「この水はお前の家の庭から流れてきたんだからお前がなんとかしろ」なんて喧嘩も始まっちゃったりしてね。それでもなんとか、村人を静かにさせようとしてひねり出したアイデアって何だったと思う? 一軒に2つ浮き輪を配ります。だって。この状況で浮き輪配ってどうすんのって思うし、流石に取り巻き連中もみんな反対するんじゃない?って思ったんだけど、これがなぜか、配り始めちゃったんだよね。もう溺れかけている村人も居るんだけど、その家にも配るんだって。独り者の家にも、家族5人の家にも2個なんだって。意味あるのかな。それにね。なんだか変なんだけど、浮き輪は長がみんなの年貢で買う事になるんだけど、1個90円の浮き輪なのに、460円もの年貢がかかるっていうんだよね。配るのに370円もかかっちゃうんだろうか。ふしぎ。で、実際それを配り始めちゃったんだけどね、なんか半分くらい穴空いているの。浮き輪。浮き輪の真ん中の穴じゃなくて、空気入れても膨らまないわけ。それにすごく小さいんだよね。流石に村人が怒っちゃってね、改良して配りなおすとか言ったんだけど、「これからかい?」って感じ。もう呆れたっていうか、がっくりしちゃってね。だけど、状況はどんどん悪くなってくるし、もう不安でたまらなくなってきた時に、今度は、何て言ったと思う?外に出たら水に流されてしまって危ないから、家にいなさいだって。一旦はさ、確かにそうかもしれないって思ったよ。だけど家に居たって水はどんどん溢れてくるしね。もうそろそろ、家に居るのも限界じゃないかってみんな思いだしたころ、気のせいか水かさも少し下がってきたんだよね。今が川を渡るチャンスなんじゃないかな、それ渡るぞーって感じになった。そしたら、後25日家にいなさいって。何で?って思ったよ。いつまで家に居れば大丈夫になるのって? 何にも言わないんだよね。なんで25日なのかさ。食べ物だって無くなってきているし、まだおぼれかけている家もあるし、家ごと流されちゃった村人だっているしね。水かさだって、また増えるかもしれないし。みんなで船を作れなんて話ならやる気も出るけど、このまま家にじっとしていなさいなんて言われたら、疑っちゃうよね。こっちが家に居る間に、自分だけ渡っちゃうんじゃない?とかさ。あるいは運を天に任せて何もしないまま25日待つだけになっちゃうとか。そうこうしている間に、他の村は、どんどん橋を渡って、もう大丈夫だ!なんて乾杯しているの。うちの村が溺れかけているのに。村Kなんてもう余裕でね、他の村を助けようとし始めているんだ。うちの村も助けてって思ったんだけどね。うちの長は村Kの悪口ばかり言っていたからね。助けてって言えないんだよね。長は俺の責任だなんていうんだけど、この人「責任」の意味が分かっていなくてね。責任って言えばなんでも帳消しになる呪文だくらいにおもっているみたい。誰もそんなの信用なんてできないの。それどころか、自分で宿題できずにね、いつも手下にやらせてそれを棒読みするだけだったから、何か言っても、まったく感情が伝わってこないんだよね。そんな人に責任なんて言われてもさ。いやホントいい加減誰か「こうしましょう!」って皆が納得することを言ってくれないかなぁ。このままじゃ、うちの村は沈んじゃうかもしれないし、例え洪水が収まっても、ボロボロ。村人もすっかり疲弊しちゃって、立て直しも大変だよなぁ。

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