日常の珈琲

私の父親は、珈琲好きだったのだと思う。

本人も珈琲が好きだと言っていたし、週末にはたいてい朝から一人で喫茶店に行って本を読んでいた。子供だった私は昼頃にその父のところへ行って、喫茶店のミートソースをご馳走してもらったり、大好きなプリンを食べさせたもらったりしたものだ。父が自分でドリップコーヒーを淹れていた記憶は無いが、コーヒーメーカーという機械が出来てからは、さっそくそれを買って来て、自宅でも珈琲を飲んでいたし、その珈琲と氷をシェーカーに入れてアイスコーヒーを作って飲んだりしていた。

USはもともと紅茶文化だったようだが、紅茶が高くなったために、コーヒーが主流になったようで、インスタントコーヒーが登場しコーヒーが家庭に広まった1st wave から、より美味しいコーヒーを楽しむ、スターバックスを代表とする 2nd wave 、そして更に特別な一杯を求める 3rd wave へと変わってきていると言われる。この波は海の波というより、波紋のようなもので、実際には、 3rd は、1st と 2nd を内包して広がっているように思える。

父が楽しんだ珈琲は、珈琲であって、コーヒーではない。USとは違って、日本では、喫茶店という文化があり、それはある意味USの3rd wave であって、そこに 1st wave と 2nd wave が混ざり込んだ末に、ようやく 3rd wave で追いついた感がある。喫茶店は昭和文化だとも言われるが、私達の世代ともなると昭和であっても、若干後になるので、休日に一人で喫茶店に行くという習慣が薄れている様に思うが、私は父を通して、この喫茶店文化に触れているので、3rd wave だと言われても、今ひとつピンと来ないところがある。Youtubeで、珈琲のうんちくを語っている動画は時々見ても、「なるほどね」と思うくらいで、心の中では、「そんな細かい事こだわって何が楽しいのか?」なんて思っていたりもする。

珈琲の味は、豆7割、焙煎2割、抽出1割などと言われるが、1割の味の違いなんて自分にはわかりっこないし、自分で焙煎をするつもりも、豆を選ぶつもりも知識も無いので、信頼できる、自分の好みに合った焙煎されたコーヒー豆を売っている豆屋を探す事がほぼ全てだ。

しかし、これは珈琲の「味」そのものにフォーカスした場合であって、冒頭で父が「好きだったと思う」と書いたのは、父が珈琲の味が好きだったのか、香りが好きだったのか、喫茶店の雰囲気を好きだったのか、あるいは週末に喫茶店で珈琲を飲むという生活が好きだったのかわからないからであって、珈琲の「美味しさ」は、味そのもだけでなく、もっとずっと幅広いものなのだと思う。

そんな風に考えているから、自宅で喫茶店のような美味しい珈琲を飲むことは絶対出来ないと思っているし、それはいくら自分の好みの豆を探し求めても、抽出にこだわっても叶わない幻だと思っている。TPOが揃ってこその美味しさだから。

では日常の珈琲は何でも良いのかと言われれば、それはそうではないし、家でも美味しい珈琲を飲みたい。ただその美味しさとして求めるものが違っている。幸運な事に、北海道に移住してすぐにお気に入りの豆屋さんが見つかったので今でもそこで豆を買っている。実は途中、そこへ行くのが大変になった時期があって、10年くらいネットで豆を買っていた時期があったのだが、及第点ではあるんだけど、やっぱり今ひとつで、今は元に戻っている。話が逸れたが、数年前までは、その豆屋さんで挽いた豆を買って、自宅ではコーヒーメーカーで珈琲を淹れていた。コーヒーメーカーもサイフォン式も含めていろいろ試したが、結局タイガーのものに落ち着き、これは今では使っていないのだが、今でもかなりポイントの高いコーヒーメーカーだと思っている。コーヒーメーカーのおすすめはと聞かれれば、最初にこれだと言うし、それまでのどれとも一線を画すものだ。コストパフォーマンスも抜群。

私達はこの日常の珈琲を飲む習慣とは別に、キャンプ(正確には今はキャンプではないが)、アウトドア(正確にはアウトドアでも無いかもしれないが…)で珈琲を楽しむ機会があり、その時は、イワタニの2243でお湯を沸かして、いつ買ったかわからないカリタの台形プラスチックドリッパーで珈琲を淹れていた。豆は同じだが、家で飲むのとはぜんぜん違う美味しさを感じた。

私にとって珈琲はそんなものであって、強いこだわりがあるわけでもなく、お気に入りの豆を普通に淹れて普通に飲む、それを美味しいと思っていた。今もそうなのだけれども、少し変わったのは、今は、仕事中は手軽にネスプレッソで淹れて飲むのだが、昼食後だけは、自分で豆を挽いてハンドドリップで淹れる様になった。これは「味」を追求してのことではなく、妻との「時間」を楽しむためで、幸い我が家は二人とも珈琲好き(紅茶も好きだけど)だということと、二人ともほぼ24時間自宅にいるのだが、それぞれ仕事があって24時間一緒にいるわけではないので、昼食を一緒に食べてから珈琲を飲んで寛ぐ1時間くらいを大切に思っている。それだけならコーヒーメーカーでも良いと言われればそうなのだけれども、自分で淹れる事でその時間がより豊かな時間になるような気がするのだ。これは、日常の中にアウトドア珈琲の楽しみを取り入れているというか、その2つの融合なのかもしれない。実際、自分で淹れるようになってからは、自宅でもアウトドアでも、お湯を沸かす方法が違うだけで、それ以外は同じになった。

自分で淹れるようになって、最初に買ったものは、ハリオの V60 とステンレスサーバー。これは、珈琲好きの友人のSさんが、旅行先で朝淹れてくれる珈琲がとても美味しくて、淹れ方も格好良かったので、真似したのだけれど、たっぷり二人分 400cc の珈琲を昼食後に淹れるのにかなり便利だ。V60は高速ドリッパーなどとも言われているが、抽出時間が早く手軽に美味しい珈琲が淹れられて気に入っていた。

気に入っていたと書いたのは、つい先日、V60から、カリタの Wave Filter に乗り換えてしまったからだ。実は最初から乗り換えるつもりではなかったのだが、どうもV60で自分で淹れると、自分の中にある喫茶店の珈琲のイメージに対して、すっきりしすぎるのが気になっていた。最初は豆のせいだろうと思っていて、くだんの豆屋さんに教わって、自分ブレンドをしたりしていたのだが、確かにそれで好みに近づくものの、やっぱりスッキリ。ま、客観的に見れば、24g の豆で 400cc 抽出するという時点で、そりゃ薄いだろうさと言われてしまいそうな淹れ方をしているのだけれども。二人ともたっぷり飲みたいけど、あまりカフェインは取りたくないと思っているので、この淹れ方でもうちょっとなんとかならんかなと。

なんとかならんかなを、カリタの wave filter がなんとかしてくれそうな気がしたので、試しに買ってみたところ、1回でその違いに驚き、その場で乗り換えてしまった。と同時に珈琲の味は抽出1割なんて嘘じゃんって思った。それと、これは自分で狙っていたわけではないのだけれど、カリタの wave filter のドリッパーはプラスチックのものがなく、アウトドアでの使用も考えるとガラスは選択肢から除外したし、あまり高いドリッパーも意味が無い(味に関係ない)と思ったので、ステンレスの一番安いのを買ったのだが、これ安いけどコストパフォーマンスはかなり良くて、作りもしっかりしているし、ピカピカで、かなり気分が上がる。やっぱりいくらドリップにこだわっても(自分はこだわっていないけど)、プラスチックだと味気ないなと改めて思った。ガラス製も雰囲気は良いけど、台座がプラスチックだから、このステンレスがベストだと思う。この wave filter 、V60と同じだけの粉を入れても、キュッと締まった感じで、粉を入れただけでなんか美味しい珈琲が入りそうな感じなんだけど、お湯を注ぐと更に良い感じになって、かなりビジュアルが良い。そして実際、同じ豆を同じ様に入れているのに、V60より自分の好みにずっと近い珈琲が飲める。

コーヒーの味を追求する人、器具にこだわって高いものを揃える人、豆にこだわる人、抽出技術に磨きをかける人、たくさんの、いろんなかたちのコーヒー好きがいる。私が求める日常の珈琲は、こだわり過ぎて疲れちゃう様なこともなく、高価なものでもなく、喫茶店の様な味を追求するものでもないのだけれど、カリタの wave filter は、今の自分の求めている日常の珈琲を淹れるのに一番あっているもののように思える。

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