卒FITという妙な言葉があるのだけど、10年くらい前に FIT 契約(太陽光発電の余剰電力10年間固定価格買い取り制度)を開始したお宅が、10年目を迎え始めていて、当時40円前後の買い取り価格だったものが、10年の契約が終わり、新たに売電の契約をすると、10円前後になってしまうという悲しい状況になる。卒業といっても良いことばかりでは無いわけだ。
この売電価格が高い時期に太陽光発電を設置したお宅の多くは、蓄電池が無く、昼間の余剰電力を売電して、夜間(に限らず発電していない時)は、電力会社から電気を買う(従来どおり電力会社の電気を使う)というパターンが多い。ご家庭によっては安い夜間電力の契約にしている家もあるのだけど、夜間電力の契約にすると、そのぶん昼間は割高になるため、冬や曇、雨といった発電量が下がる時には割高な電気料金を払わなければならない。更に追い打ちをかけるように、そういった自由料金の契約は、燃料費調整額の上限が無い為、最近になって相当割高な電気料金になってしまっている。
10年というと、だいたいパワーコンディショナーの交換時期でもある為、パワコンの交換と同時に蓄電池の設置を検討される方も多い。コストを掛けて設置した太陽光発電システムで発電した電気を二束三文(買値が34円なのに売値が10円という状況を二束三文以外どう表現して良いかわからない)で売るより、余った分は貯めておいて、発電していない時に使おうというのは自然な流れだと思うが、ここで問題になってくるのは、蓄電池の価格という事になる。我が家の場合で言えば、太陽光発電システムが100万に対して、蓄電池のシステムが200万といった価格になるのだが、10年前の太陽光発電システムはもっとずっと高かったはずで、10年間である程度元を取っているとは言っても、ここで、200万近い追加投資に二の足を踏むのは当然とも思える。太陽が出ている間は自家消費できるし、二束三文とは言え、余剰電力が多少の収入にもなっている状況で、余剰電力を売るのをやめて、買電を抑えて、蓄電に振れるかといえば微妙なところだし、その蓄電池システムの投資への回収が、今後10年かけてまた始まるのかと思うと、難しい選択になっていると思う。
そういった事情もあって、蓄電池システムを諦めて、だからといって二束三文で売るのもなんか嫌だなぁといったところから、余剰電力をポータブル電源に貯めておいて、発電の無い時間帯にポータブル電源の電力を使うという選択肢が出てきた。ただ、余剰電力だけ取り出せるコンセントなんてものは(今のところ)無いので、発電量を見ながら、ポータブル電源の充電をしたりしなかったりを自分でやらないとならない。ある程度自動化するとすれば、ポータブル電源のコンセントにタイマーを入れて、発電が期待できる昼間だけONにする(発電していなくても)というような方法で省力化することも考えられる。
利便性を考えれば、パワコンを入れ替えて、蓄電池を設置したほうが、全て自動で無駄なく行われるので、メリットは大きいのだが、価格的にはポタ電を使ったほうがずっと抑えられるとも考えられる。しかし、本当にポータブル電源は蓄電池システム導入に比べて、その手間があったとしても、安いのだろうか?
という疑問から、ポータブル電源と我が家の蓄電池システムの価格の比較をしてみました。
まず、我が家の蓄電池システムは、太陽光発電と同時設置割引で割安になっています。見積書では、60%引き以上となっています。ただ、これについては、同時設置でなくても安いところはあるし、なんならもっと安い業者もあるかもしれません。私はこの手のシステムは安ければ良いとは思わないので、信頼できる業者を選びましたから、卒FITの場合も、探せば同等くらいの価格で蓄電池システムを導入できるのではないかと思います。実際、他に蓄電池システムの価格を知らないので、我が家の価格で計算するしかありません。一方、ポータブル電源の方は、今現在、ANKERが結構なディスカウントセールをしていますので、その価格を使います。
ANKERのポータブル電源として、卒FIT後の家庭で導入しやすそうなのは、Anker 767 と Anker 757 あたりになります。理由は、バッテリー容量と出力電力で、ドライヤーや湯沸かしなどに使うには、どうしても 1500W以上のAC出力は必要で、家電で使うには、容量もそれなりに必要だからです。使っている途中で容量が0になったらコンセントに切り替えるとなると、かなり面倒です。
この3つを単純に 1kwあたりの価格で計算しますと。
となります。単純計算では、757が一番安く、蓄電池システムが一番高いという結果になりました。というわけで、手間暇を考えなければ、ポータブル電源もありということになりますが、正直思った程の大きな差でも無いのだなぁと思いました。仮に、Anker767 の容量で十分んだとすれば、毎日が晴天で発電ができると期待するのであれば、蓄電池の単価では、122.426 * 2048kw = 250,728円ですから、767の定価(299,900円)より安くなります。 2048kwなんて小容量の蓄電池システムは無いのであくまでも計算上です。反対に、蓄電池システムを構築する場合、10kw が一般的ですので、10kw を確保するとなると、Anker 767 だと 5台必要で、ディスカウント価格を使っても、1,199,500円かかる計算になります。ポータブル電源に120万も払おうと思う人がいるかどうかはわかりませんが、Anker 767 を家に5台も置こうなんて思う人もまた変人と類かもしれません。そのAnker767の電力を使うのに、ACのタップが床を這い回るとか、各部屋に Anker 767 があるとか、なかなかシュールな状況ではないかと思います。
ちなみに、我が家の蓄電システムの価格には、パワコン、全負荷用変圧器、DC-DC変換器、家電と蓄電池からの電力の切り替え盤といったものがすべて含まれている価格です。ポータブル電源にも、BMS(バッテリーマネージメントシステム)が入っていますが、あくまでもポータブル電源の制御に限られているもので、例えば、ポータブル電源を適当な壁コンセントに挿しておけば、余剰電力がある時に自動で充電されて、太陽光発電量に対して、家の電気使用量が多い場合は、自動でポータブル電源から壁コンセントを通じて電力が供給されるというような仕組みは持っていません。(いずれそういうポータブル電源が出来てもおかしくないとは思っています)電流は水と似ていて、電圧の高い方から低い方へ流れますから、ポータブル電源側の電圧をコントロールすることで原理的には可能です。太陽光発電の売電も同じ原理で、家の中の電圧が、電柱からの引込線の電圧より高い場合に売電になります。実は、この仕組のために、電圧上昇抑制という問題があり、日本では電圧が107Vを超えてはいけないという法律(法律と書かれている事が多いのだが、厳密には法律で107Vと決まっているわけではない)があるために、何らかの事情で引込線の電圧が107Vになってしまうと、いくら余剰電力があっても、売電できないという問題が発生します。
何の話をしているのかまったくわからなくなってきましたが、要するに、ポータブル電源の方が蓄電システムに比べてすごく得だということは無いので、そこにかかる手間と、必要な容量で、どちらにすれば良いのかを選択すれば良いということになるかと思います。そして、もし今、私が卒FITで、どちらかを選択する状況だったとすれば、個人的には蓄電システムを選択していると思います。本日システムの最終点検で、ほくでんのブレーカーを落としたのですが、自動的に蓄電池からの電力供給に自動的に切り替わり、家中の家電が、まるで停電などおきていないかのように使えるという状況を経験して、これは、病院などで、自家発電に切り替わった状況と似ているかと思いますが、自宅でそれができるという事にとても感動しました。もちろん、太陽光パネルがある以上、蓄電池システムが無くても、発電している時間帯は、同じ様に停電などおきていないかのように電気を使えるものと思いますが、発電していない時間帯でも同じ様に使えるということ、バッテリーの電力を消費しても、また太陽が出て発電が始まれば自動的にチャージされるという事は、大きな安心感につながると思いました。