dance or play?

 ピアノの演奏で、稀に違和感を感じるほどのオーバーアクションを見る事があります。 特にコンクールなどで(かなり上手な)子供の演奏で感じる事が多いのですが、プロの演奏では、相当ダイナミックなアクションで演奏される場合でも、違和感を感じることは全くないので、この違和感はどこから来ているのだろうと考えてみました。

 確かにダイナミックな演奏は聴いていても見ていても惹かれるものがあるのですが、演奏を聴くというのは、まさしく演奏によって奏でられる音を楽しむのであって、楽器を使った演奏者のダンスを見ているわけでは無いですので、そのダイナミックさが奏でられる音楽と隔たりがあったり、その音楽に対して必要以上なものである場合に、違和感を感じるのかもしれません。

 ダンスは、自分の考え、思い、感情といったものを、体の動きとして表現するものだと思いますが、ピアノ演奏は最終目標はあくまでも音であって、演奏者の体の動きではないはずです。

  • ダンス:   心=>体の動き
  • 演奏: 心=>音

しかし、演奏では、体の動きが伴わないと音が出ないので、

  • 演奏: 心=>音=>体の動き
  • 演奏: 心=>体の動き=>音

というパターンが考えられます。物理的には、体の動き=>音となりますが、
精神的には、音=>体の動き ではないかと思うのです。

つまり、何か表現したいものがあって、それをどのような音で表現したいのかという意識があり、その音を奏でる為に体を動かすのであれば、違和感を感じる事無く、逆に、表現したいものから直接体の動きへ意識が向かって、結果的にその動きに合った音が出てくる事を期待する演奏では、違和感を感じるということかもしれません。

例えば、先生が、「ここは柔らかい音だから体を柔らかく使って…」みたいな言い方をした場合生徒によっては、体が先という状況に陥りやすいのではないでしょうか。 もちろん柔らかい音を出すには、それなりの体の動きが必要になるわけですが、求めているものに対して必要十分な動きであれば良く、それ以上の動きで何かを表現する必要は無いと思うのです。

 演奏評価で、「もっとダイナミックで大きな演奏をしてください」などと言われた場合、これを体の動きとか演奏テンポとかに結びつけて考えてしまう方がイメージしやすいかもしれませんが、こういうのもやはり、「ダイナミックで大きな演奏」は、奏でられる音楽に対して言われているのであって、「もっと派手に踊れ」と言われているわけでは無いはずですよね。つまり努力すべきは、心の方であって、もっと音楽に対する理解を深めて、様々なフレーズや表現方法に触れて豊かな音楽を奏でて欲しいと言われているのではないかと思うのです。それはタッチを強くするとかテンポを上げるとか単純な事ではなく、もっと深い意味合いがあって、逆に言えば、そのようなコメントをもらえるということは、それ以前の技術的な指摘をされるよりずっと凄い事なんだと感じます。

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